田勢康弘のブログ

緊迫の「米・北」 誰も理解不能、金正恩氏

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四国新聞掲載「愛しき日本」4月24日付けより

米海軍原子力空母カールビンソンが日本海へ向け北上。海上自衛隊護衛艦2隻が同行する。朝鮮人民軍創設記念日の25日を前に緊張する北東アジア。55年前のキューバ危機は米国とソ連の核戦争直前まで行った。あのときのように直前で危機を回避できるのか、それとも…。その鍵は「金正恩」という理解不能な指導者が握る。

「金正恩」という人物はいかなる人物なのだろうか。なぜあのような髪型、体型をしているのか。祖父の故金日成氏を真似ようとしているという説がある。27年前に平壤で金日成氏に会ったことがあるが、いまの金正恩氏とはまったく似ていない。海外留学の経験のある人物が、なぜ理解不能な行動を取る指導者になったのか。

ごく限られた北朝鮮の幹部以外に、この人物の人となりを知る人はいない。この人の父親、故金正日氏も謎の人物で、トップの座に着くまではその声を聞いた人は北朝鮮以外ではだれもいなかった。北朝鮮と一触即発の関係にある米国は、軍事的な対応とは別に「金正恩」とはいかなる人物かの情報収集に全力をあげているという。12歳から14歳までスイスのベルンに留学していたが、そのころの同級生などを含め、どのような性格なのかの情報を集めているという。

スイス時代の写真を見ると、素直な少年というイメージで「凶暴性」を感じ取ることはできない。どのような環境で叔父の張成沢氏を処刑したり、実の兄金正男氏を死に至らしめるようなことになったのか。地球上のあらゆる価値観を総動員しても、指導者としての彼の行動を正当化する理由は見つからない。核実験を強行すれば、トランプ米大統領はただちに軍事行動に踏み切るだろう。実験の兆候があれば、その前にという憶測も流れている。

軍事行動に出れば、それはそのまま金正恩体制の終焉を意味する。いずれかの手段で斬首作戦が実行される可能性も高い。それをも覚悟しての強気の姿勢なのか。それとも単なる弱者の脅迫か。北朝鮮に反撃の余地があるとすれば、狙いはソウルか日本、それも米軍の中枢機能の横田基地を狙うだろう。ソウルも東京も甚大な被害が出る。一方で日本海沿いには原子力発電所が林立している。運転を停止していても破壊されれば大変なことになる。北朝鮮が「窮鼠猫を噛む」の状態にならないように何とか話し合いのテーブルに着けなければならない。

トランプ政権はオバマ時代の「戦略的忍耐」の時代は終わったと宣言、安倍首相はそれを「評価する」と言い切った。ついこの前までオバマ政権の北朝鮮政策を支持し続けてきたのに、説明もなしの鮮やかな身のかわし方である。シリアを爆撃し、アフガニスタンに大型爆弾を落とし、米国内での大統領の支持率は幾分上昇している。いつの時代も戦争は国民の人気を呼ぶのだ。しかしながら、米国にも北朝鮮に対して軍事行動を取りにくい事情もある。それは韓国にいる米国人が在韓米軍5万人、その家族、ビジネスマン、旅行者などで25万人いるという。米国人を1人も傷つけることなく作戦を実行することはかなり難しいことなのだという。

すでに米兵の家族など千人ほど帰国しているようだ。日本人は駐在ビジネスマン、旅行者などで5万人ほどだが、これからは渡航者も激減するだろう。日本が果たすべき役割は米中の間を取り持つことだ。北朝鮮に自制を促すのが中国の役目だが、日中の間にそれを要請できるような良好な関係が残念ながらできていない。

人間は不思議なことに、自分の周りではいかなる大惨事も起こるはずがないと思うような共通した性癖がある。とりわけ先の大戦以降、70年も戦争と無縁だった日本人は、日本が戦争に巻き込まれるとか攻められるとか考えない。だから、いま起こっている北東アジアの危機も他人事でしかない。日本地図を北朝鮮側から見てみるとどうなるか。「核」をめぐって対峙する米国大陸は太平洋の遥か彼方にある。そのずっと手前に米国を守る小さな堤防のように日本列島が横たわっている。そしてそこには北に攻め込もうとする米軍の基地がいくつもある。北朝鮮からはそのように見えるし、とりわけ金正恩氏はそこを見据えているかもしれないのだ。

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