「世は歌につれ」/歌謡曲ルネサンス
4.さてどちらを選ぶか
歌が好きで半世紀以上も歌を聴きつづけているので、知らなくてもいいようなことを結構知っている。その中の2つを紹介したい。
ひとつは「舟木一夫は橋幸夫だった」という話である。つまり橋幸男青年(本名)はコロムビア・レコードからデビューするはずだった。コロムビアが用意した芸名が「舟木一夫」。
ところが恩師の吉田正がビクター専属だったため、コロムビアを断念、そのために橋のひとつ下の上田成幸青年が舟木一夫になったという。
たまたまテーブルで隣に座った橋に確認したら「よくそんなこと知っているね」と言われた。
もうひとつは「からたち日記」。西沢爽作詞、米田信一(遠藤実)作曲の島倉千代子の代表曲である。
実はこの歌は2曲ある。だれもが知っているのは長調。もうひとつは演歌っぽく暗い短調の曲。遠藤実は島倉に選ばせた。当然、自分がいいと思っている短調の曲を選ぶと思ったら、逆だった。
この選択が島倉にとっても、また遠藤にとっても大きな分かれ目だった。知られていない短調の曲を10年ぐらい前までぼくは歌えたが、いまは忘れてしまった。
島倉千代子 「からたち日記」