「世は歌につれ」/歌謡曲ルネサンス
52.出会えた人出会えなかった人 五月みどり
年齢をばらしては失礼かもしれないが、2016年10月で77歳である。いまもとても可愛らしい。
先月、代々木上原のけやきホールで行われていたコロムビア・レコードのコンサートで、終了後、五月みどりとすれ違った。「あらー」周りの人々がびっくりするような声を上げて、五月は近づいてきた。
何年ぶりだろうか。だいぶ前のことだが、TBSラジオの「大沢悠里のゆうゆうワイド」という番組で、五月みどりは水曜日のMCだった。ぼくは水曜日のあるコーナーで政治の話をしていた。10年ぐらい一緒だっただろうか。裏表のない開けっぴろげで明るい人だった。下町の肉屋の娘で。歌手の小松みどりは実妹。「かわりませんね」「そうじゃないのよ。転んでね。大怪我してずっと入院してたの。やっと快復してこれが最初の仕事よ」。
同じコロムビア・レコードということで島倉千代子と仲良かった。経費節約でベンツを手放し、落ち込んでいた島倉に五月みどりは「私もういらないからあげる」とベンツをくれたらしい。もらった人の証言だからほんとうだろう。
五月みどりは一時、オペラのアリアに挑戦していた。演歌をまったく歌わないコンサートを聴きに行ったことがある。まったく違う歌い方で堂々としていた。絵を描かせればすごいし、書もうまい。何事にも器用な人なのだ。多分、80歳すぎても、あのままの五月みどりだろう。この人に女の情念が燃え上がるような歌を歌わせてみたいと昔から思っている。