「世は歌につれ」/歌謡曲ルネサンス
6.「ひばりと島倉」
ひばりを尊敬していた島倉千代子は、必ず「ひばりさん」とか「ひばり先輩」という言い方をした。
コンサートでもたくさんひばりの歌を歌っている。同じコロムビアというレコード会社で、同学年だ。
不思議なことがある。美空ひばりはたくさんの歌手の歌をカバーしている。どんな歌を歌ってもうまいのがひばりだ。ところが、あれほど親しい島倉の歌をひばりは一曲も歌っていない。
ぼくはそこに美空ひばりという歌手の天才的な素質を感じる。
島倉の歌はころころと小さな鈴を転がすようなあの島倉の声だから生きるのだということを見抜いているのだと思う。島倉の歌をひばりが歌えば、きっと見事にひばりの歌になっただろうと思うが、そうしなかった。
ひばりの「波止場だよお父つあん」という歌を聴いて、島倉は私にもああいう歌がほしいと作曲家の船村徹に直訴して完成したのが「東京だョおっ母さん」。
それぞれ互いの代表曲になったが、歌詞に問題の表現が入っているとして、NHKではその部分を放送してこなかった。