「世は歌につれ」/歌謡曲ルネサンス
8.歌と声
きれいな歌声の人が歌手に向いているというわけでは必ずしもないと思う。
きれいな声の出せる人、歌の上手な人はたくさんいる。そこからプロの歌手として生き残ってゆくためには、その人の声がほかのだれとも違っているほうがいい。そういう声を「濡れ声」というのだと誰かが教えてくれた。
一般的に世間でいうところのガラガラ声の歌手、僕が最初に魅了されたのは関西の浪曲師初代真山一郎だ。もっとも有名な歌に「刃傷松の廊下」がある。僕が高校生の時ある町ののど自慢大会で真山一郎の「王将」を歌ったことがある。村田英雄の王将とはまったく違う歌で「露地に飛び出りゃ夜空の星が駒に見えるよこの目には」(作詞/藤間哲郎、作曲/桜田誠一)という曲だ。関西を中心に根強い人気があったが引退、いまは弟子が二代目を継いでいる。
藤圭子、一節太郎、村田英雄。最近では作曲家の岡千秋。岡さんが他人のために作曲した歌も、岡さんが歌うほうが味があったりする。
歌謡曲の歌手でもほかの分野で声を鍛え上げた人、浪曲の二葉百合子、中村美律子、民謡の細川たかし、成世昌平、香西かおり、詩吟の石原詢子らはその独特の声の魅力でいまの座にたどり着いている。
初代真山一郎 刃傷松の廊下
刃傷松の廊下を秋元康さん演出で歌ったとき