昭和歌謡裏話、こぼれ話

田勢康弘の昭和歌謡裏話、こぼれ話/ 「出会えた人出会えなかった人 ちあきなおみ」


「世は歌につれ」/歌謡曲ルネサンス

24.出会えた人出会えなかった人 ちあきなおみ

麻布十番近くに住む友人にこう頼んでいる。
「志村けんとちあきなおみが麻布十番のスーパーに買物に来るらしいけど、志村はいいからちあきなおみだったら連絡して。」

元NHKアナウンサーの宮本隆治は僕に会うたびに「ちあきなおみにもう一度歌わせるプロジェクト本気でやりましょうよ」と催促する。

言い出しっぺは僕だ。ちあきなおみのために「紅とんぼ」(作詞:吉田旺作曲:船村徹)「空にしてって 酒も肴も 今日でおしまい 店仕舞」をはじめたくさん作曲している船村徹に直接頼んだことがある。「あの声とあの歌い方なら20年歌っていなくてもまだ十分に歌えると思います。先生、口説いてください」。

その後、なにか変化が起こったということはない。なんでもコロムビアのディレクターのHさんだけがときどき会っているそうで、ほかの人はまず無理だというのが業界の定説だ。

現役のときはさほどには思わなかった。「タンスにゴン」などのCMの印象のほうが強かった。
しかしいま聴き直してみると、美空ひばり、テレサ・テン、ちあきなおみのこの3人の歌唱力は断然抜きん出ていると思う。とりわけポルトガルのファドを歌詞を変えて歌っている「秘恋」(日本語詞:吉田旺作曲:ポルトガル民謡)「いいの私このままで ひどい女といわれても」は初めて聴いたときには衝撃を受けた。
これほど張り上げず、静かに語るように歌って、体が震えるほど聴く人を感動させられる歌い手はこの人以外にはいないと思う。どんな歌を歌ってもすべてちあきなおみの世界なのである。

紅とんぼ/ちあきなおみ(1988年)

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