「世は歌につれ」/歌謡曲ルネサンス
29.出会えた人出会えなかった人 五木ひろし その1
忘れもしない。名前を三谷謙といった。1970〜76年まで続いた「全日本歌謡選手権」(読売テレビ制作)でやや腫れぼったい目をした青年が「雨のヨコハマ」(作詞:北五郎作曲:遠藤実)「好きになってはいけない人と 知っていながら待ちわびる」を歌って10週勝ち抜いた。くす玉が割れ、歌い手は涙、涙。このシーンをテレビで見て、はっきりと記憶している。
のちの五木ひろしである。それから40年以上たっているのに、彼が10週何を歌ったか覚えているから不思議だ。
1週目は前川清の「噂の女」(作詞:山口洋子作曲:猪俣公章)「女心の悲しさなんて わかりゃしないわ 世間の人に」。前川よりうまく歌えるわけがない、と思ってみたら驚いた。まったく違う味わいだ。
2週目は霧島昇、大川栄策の「目ン無い千鳥」(作詞:サトーハチロー作曲:古賀政男)「目ン無い千鳥の高島田 見えぬ鏡にいたわしや」
3週目は「俺を泣かせる夜の雨」。一条英一の芸名で再デビューしたときの歌である。作詞は白鳥朝詠。作曲は松山まさる、最初の五木の芸名だ。「俺を泣かせる雨なんて 降っちゃくれるな 気まぐれに」。
4週目前川清の「逢わずに愛して」(作詞:川内康範作曲:彩木雅夫)「涙枯れても夢よ枯れるな 二度と咲かない花だけど」
5週目は驚いた。曲名を聞いた瞬間、これで落ちたな、どうしてこの曲を選んだのか、と思った。「男の友情」(作詞:高野公男作曲:船村徹)「昨夜(ゆんべ)も君の夢見たよ 何の変わりもないだろね 東京恋しや 行けぬ身は」。若くして逝った友、高野公男と作った歌で、船村がもっとも思いを入れた歌だ。その船村が審査員をしている。厳しい批評を続けている船村の前でこの歌を歌うとは…。がっくりしたことを覚えている。しかし、合格し勝ち抜いた。
俺を泣かせる夜の雨/一条英一(五木ひろし)