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「世は歌につれ」/歌謡曲ルネサンス
41.出会えた人出会えなかった人 西山ひとみ
こんなに歌のうまい歌手がいるなんて知らなかった。
知人に誘われて埼玉県川口市のディナーショーに出た。会場のテーブル席は300人はいただろうか、ぎっしりだった。お客さんが毎年来ている常連ばかりということが雰囲気でわかった。
5人編成のバンドもうまい。その歌を聴いていて、僕はふと思った。
この声と歌い方、とりわけ魅力のある低音はポルトガルのファドにぴったりだ。ポルトガルのリスボンでファドを聴きに行ったことのある僕は、かなりかぶれていた。ファドの女王アマリア・ロドリゲスの「Foi ontem(昨日)」に日本語訳をつけてちあきなおみが歌う「秘恋」(作詞:吉田旺ポルトガル民謡)「いいの 私 このままで 悪い女と言われても 人目避けてしのび逢う あなただけしか見えない」そうだ、この歌が西山ひとみにぴったりだ。
ところが、西山ひとみ本人にはまだ会ったことがない。彼女はいまステージで歌っている。どう伝えようか。
僕は自分の名刺の余白に「あなたの声はポルトガルのファドにぴったりです。ぜひ、ちあきなおみが歌っている秘恋という歌を歌ってほしい」と書いて、彼女の会社のスタッフと思われる人に渡した。
そしたら、それから2曲くらいあとに「秘恋」を歌い始めたのである。私のメッセージがまだ伝わっているはずもない。伝わったとしても準備がなければ急には歌えるものではない。偶然だったのである。
このことに西山ひとみ本人も驚いたらしい。西山の秘恋はちあきなおみに負けないぐらいすばらしかった。
このときからファドと西山ひとみは僕のイメージの中でしっかりと結びついていた。
「全日本こころの歌謡選手権大会」の課題曲について考えている時、ファドを1曲入れたいと考えた。僕が作詞した「Espelho 鏡」(作詞:清志郎 作曲:中里哲也)「行きずりに やさしい言葉をかけられて 初めて恋した その人は 結ばれてはいけない人でした」がその曲で、西山ひとみが歌うことを勝手にイメージして書いた。
この歌のレコーディングのとき、体が震えた。日本生まれのファドができた、と思った。