= 想定内音楽 =
もう少しだけカラオケの話題に戻ります。カラオケ大会でチャンピオンを何回も取ったという歌手のレコーディングで、唖然とするくらい苦労することが何度かありました。「あんなに素晴らしいステージだったのに…?」と首をかしげることも少なくないです。カラオケという思いっきり慣れきった伴奏音楽の中で、「余裕のヨッちゃん」で歌うことと、オリジナルの新曲は違うんですね。
私は、カラオケは「想定内音楽」だと思っています。最初から鳴る音がわかりきっているのです。新曲レコーディングは、まだそれほど慣れていないので、その楽曲に溶け込ませるのが大変なのです。よく「まだ十分歌い込んでいないから…」という話に遭遇します。本当に歌い込んでいないこともありますが、耳の鋭さを試されたら途端に歌唱力が無い歌手に時々遭遇して困りました。
新曲のレコーディングと似た話もあります。「生伴奏」です。カラオケの「想定内音楽」に慣れきった人は同じ曲でも生伴奏での歌唱は「あれっ?」と思うほどズッコケる人が珍しくありません。カラオケは普段からその作品の「イントロ」「リズム」「おかずと言われる合いの手」など自分の歌を伴奏してくれる伴奏音楽に慣れています。それでもじっくり聴き取って編曲家や演奏家と一体になった歌を作り上げれる人が上手い、いや、いい歌手だと信じています。
ある指導の現場での話です。「もう一度あなたの歌っている楽曲のカラオケだけをじっくり聴いてみましょう!」 まるでお芝居の演出のように歌手の方と一緒にその作品の伴奏をしっかりと聞き直しました。「一方的なひとり芝居」ではなくあらためて、「イントロ」「Aメロ、Bメロ」「サビ」などを把握して、どう溶け込ませて演技をするかというお芝居の主役のように歌うことを求められます。演じることに喜びを持つ役者のような歌手だったのでみるみる素晴らしい歌唱になりました。いい「耳」を持つようになったのです。