半音をしっかり歌ってドラマを描く
シャンソンファンや大人の歌のお好きな方がこの作品を好んで歌われる。シリアスで大人の味わいというか、若さでは理解できない深みのあるドラマ仕立てだからなのであろう。
美しいイントロが流れた後、「もういいじゃない」と語るようなフレーズから始まるこの作品は、まるでフランス映画の酒場のワンシーンのようだ。
それだけに、この最初の語りはデリケートで丁寧に歌って欲しいところだが、2小節目の「これからさきも」がうまく表現できていない歌い方を時々耳にする。半音がうまく表現できていないのである。
楽譜を使って説明する。
楽譜協力:「月刊歌の手帖2016年8月号」
「これから」の「れ」が「こ」に対してきれいに半音さがって歌って欲しいのだが、「これか」まで同じ音で揃ってしまっている。ここのメロディは、この変化を付けてこそ美しい響きになることを考えて若草恵先生が作られたはずなので、ぜひしっかりと歌って欲しい。
具体的に楽器の音で演奏した音源とオリジナル音源を聴き比べて確認してみよう。
最初に流れるメロディは「これから」の「れ」が半音下がっていない例である。5小節目の「むかしのこえ」の「か」も同じケースである。次に、ここを正しく演奏した音源、そして、最後にケイ潤子さんのオリジナル音源が流れる。
ほんの半音ではあるが、明らかな違いを聴きとることができる。作曲家は、詞の世界観を表現するために半音単位でこだわってメロディに落とし込む。
最初の部分だけを取り上げて簡単に解説したが、この作品はメロディラインがとても重要であること教えてくれる1曲である。