突き抜ける
「どうしてこんなに(歌うのが)難しい曲を作ったのですか!?」とよく訊ねられる。
事実歌いにくい曲だと思う。まず音域が13度あり、あの美空ひばりさんの「みだれ髪」より1度狭いだけの広い音域。そして、メロディは曲の途中での転調したり、上下の大きな振れがあったり、確かに歌うのは大変な作品である。
この詞を作詞家の堀越そのえさんからいただいたとき、「今までにない感じで、中途半端なおさまりではない、本当に飛んでゆくような曲を書いてください!」という熱い思いを受け取り、遠慮なく伸び伸びとメロディを跳躍させた作品に仕上げた。結果、このような難しい作品になった。
ところが、意外と抵抗なくキレイに歌われている方が多い。ただ、微妙なところでこの歌の持ついいところのニュアンスを出し切れていないケースが見受けられる。
楽譜を使ってその例を紹介する。符割りとメロディの問題である。
楽譜協力:「月刊歌の手帖2016年8月号」
「きんいろのちょう」の「ちょう」は「ソシ」と8分音符で思いっきり下げたメロディになっている。ここの「ちょ」だけを8分音符ではなく4分音符、つまり1拍でゆったり歌って、「う」だけを「シ」に下げていることがある。
音源にはこの例を演奏しているので聴いてみて欲しい。このように歌うと、もたっとした感じで残念な歌い方になってしまう。実は、最初はこういう楽譜だったのだが、リハーサルで花木さち子さんが今の楽譜のように歌い直してくれて、その場で「これだ!」とすぐに決めたかっこいいメロディなのである。
そして次の「いま」の「い」も、「また」の「ま」も8分音符で歌ってすぐに次の小節のロングトーンへつないでゆく。この歌唱がかっこいい。
音源は、最初にNGのケース、次にOKのケースを楽器演奏で、そして最後に花木さち子さんのオリジナル歌唱が録音されているので違いをしっかり聴きとって欲しい。
この作品は、作詞・作曲・編曲・歌唱の制作者それぞれが新しいものに挑戦して生まれた楽曲である。挑戦する方も、かっこいい歌唱のポイントは押さえつつ、キレイにまとめることなく伸び伸びと突き抜けるように歌って欲しいものである。