「歌がうまくなるにはどうしたらいいのか?」
世の中にはすでにたくさんの素晴らしいメソッドや歌唱指導の先生もいらっしゃいます。
ここでは技術的な視点とは少し違った角度から「歌に対する意識」を考えてみましょう!
= 歌いっぱなしはダメ! =
いつもの渋谷のスタジオでのこと。「もっと歌うまくなりたいんですけどっ!」。新曲のレッスンをしているアーティストから思わずこぼれたため息きっぽいセリフ…。そういえば、一昨日も似たような言葉をある歌手から聞かされた。そりゃそうですよね、みんな少しでもうまくなりたいし、いい歌を聴いてもらいたいと思います。でも、なかなか決定的処方箋はありません。みなさんそれぞれに苦しんで下さい。
はっきり言って、「みんな歌うことをなめている!」と言いたくなりました。とにかく「歌いっぱなし!」の人が多いのにはビックリします。カラオケ喫茶で歌いながら練習もいいでしょう。「一人カラオケ」で一生懸命歌うのも効果的だと思います。しかし大事なのは、自分の歌を客観的にしっかり聴くということなんです。だらだら「聞く」ではなく、聴き取る「聴く」なんです。ほら、しっかり左に耳偏が大きくくっついている漢字でしょう!
とにかく、歌がうまくなるためには、自分が歌った歌を録音してください。ラジカセでも、ICレコーダでも、スマホでもかまいません。そしてそれを「大きな音量」で再生して聴いて欲しいです。大きな音量が出せない方は、ヘッドホンやイヤホンでもOKだと思います。そして、自分自身が客観的にお客さんの立場になって自分の歌をじっくり「大きな音」で聴くことがとても大事だと思います。
その時におすすめしているのは、歌詞カードを見ることです。自分の歌った結果で、この詞のドラマの世界観が伝わってくるか?自らが評価したらいいと思います。決して、わが身かわいいじゃなくって、「なんか歌い方乱暴かも?」とか「音程が気になるところがあるなー」など、自分の「耳」で自分の「歌」を正確に評価できるようになることが大事だと思います。その意味で、カラオケ喫茶に行って熱く歌っても、その時に自分ではほとんど自分の歌のことはわかっていないと思った方がいいでしょう。あとはパチパチと拍手の中で「うまい!」「良かったよ!」というヨイショは、うまくなるためには少しも役に立たないお世辞の世界だと言えます。
もう少しメリハリをつけて!
全日本こころの歌謡選手権大会の1次テープ審査で、「もう少しメリハリをつけて」と評価コメントした人が沢山いました。「メリハリをつけてと言われましても…どう歌えばいいんですか!?」大勢の方から、やや不満気に質問攻撃を受けました。
メリハリとは、簡単に言って「静と動」「陰と陽」のようなものです。イントロの伴奏が終わってから、いきなり1行目の詞からアクセルを踏みっぱなしのエンジン全開の歌では、どうやってサビを盛り上げるのでしょうか?確かに第一印象は大事かもしれませんが、サビを引き立てたいためにだいたいの楽曲は最初導入部として静かに入るものです。でも、カラオケ大会がいけないのでしょうね…。多くは1コーラスしか歌わせてもらえないので、最初の4小節だっていきなり「勝負!」の思いで歌いたいのだと思います。審査員もそのあたりは良く承知しているので、最初から力む人に「歌ごころ」は無い、と厳しい点数を付けます。自分では、その部分もしっかり張りのある声で歌っているのにという不満、不信が募るのでしょう。
例え1分で終わる1コーラス勝負でも、最初はじっと我慢の「語り」でいこう。そしてサビが来たら伸びやかに「張って」いこうと、歌を組み立てて欲しいのです。そうなると、「詞」なんですね。この作品は何を書いているんだろう?どういう舞台設定なんだろうと、内容に興味を持ってほしいと思います。そして、何度も何度もオリジナル歌手のCDやテープを聴きなおして、歌詞カードや楽譜を見ながらその作品を世に送り出した作家や歌手たちの想いを、エッセンスを、ドラマを自分の体に取り入れることから始めるのです。
これは、プロでもアマチュアでも同じです。何度もその楽曲を聴いて、歌って、録音して、聴き直して、その中から自分の「耳」をしっかりとしたアンテナに育てた上で歌をレベルアップしていくべきだと思います。大きな音量にしがちなのは、小さいと細かいところが聴こえない、と考えてしまうからです。カラオケでいくら大音量で歌ってみても、その時は残念ながら「耳」はほとんどマヒ状態で、気持ちはいいかもしれませんが、自分の歌を客観的に聴き取れる環境ではありません。
歌にもっと表情が欲しい!
「なかなか上手に歌ってはいますが、もう少し歌に表情が欲しいですね…」。このコメントもすごくたくさんの人に書いた覚えがある。多くの場合「語り」の部分が全くない「歌いっぱなし」の人のことを評価したものだと思います。よく言われますよね。「歌は語るように。語りは歌うように」と。でも、これがなかなか難しい。しかしこれをマスターするにもやはり自分の「耳」を鍛えるしかないと思います。
例えば、「課題曲」が決まっている場合は、まずその模範歌手の歌を、歌詞の1行単位でじっくりほぐすように、聴き取って下さい。「ああ、ここが語りと言う部分なのか!?」と言うように自分でよくよく聴いて見つけ出すのです。そして自分の歌った部分と、オリジナル歌手が歌った部分を1行程度のフレーズ単位でじっくり聴き比べるのです。もし、自分の耳に自信が無い場合は、歌の上手いお友達などに頼んで、一緒に聴きながら指摘してもらいましょう。先生について習っている方も、繰り返して指摘できる録音レッスンをおすすめします。
とにかく歌って、録音して、そして聴いて聴いてチェックして…。どこがおかしいか?、どこがお気に入りか、カッコいいかなど自分でお客になったつもりで聴くことが大切です。そして一つのヒントですが、「ポップス」を歌っている人が「演歌」や「歌謡曲」の語りを良く聞いて取り入れても新鮮な語りが出来ると思います。いろんな作品を良く聴いて、「この作品のこの歌い方をパクってやろう!」これはすごく効果的だと思います。例えば、石川さゆりさんの「天城越え」のサビ前の語りっぽい部分を練習して、バラードの楽曲に活かすとか、鈴木雅之さんのヒット曲の中から演歌に活かせそうなフレーズを見つけて、その歌い方に応用するとか。
そうして幅広く音楽を良く聴いて自分の体の中に入れ、まさに主役を演じる役者のセリフのように歌に表情を付ける工夫をしてほしいと思います。
「さしすせそ」が「まみむめも」に!
「さしすせそ」が聴こえない!…。久しぶりにカラオケ発表会のゲストにお招きいただいた。みなさん綺麗に着飾って、頑張って一生懸命歌っていました。50~80歳くらいまでのよくある高齢者が多い大会だったが、意外に「演歌」を歌う人は少なく、おしゃれバラードみたいな歌謡曲が多かったです。点数をつけるコンクールではなかったものの、何人かの人から「先生どうでした!?」と出来栄えを聞かれて、いろいろお答えしました。しかし、会場でいきなり細かい話はできなかったため、言わなかったことがあります。
言葉の発声において、「さしすせそ」が「まみむめも」になっているのです。実はコレは、言葉がはっきりしていない、もどかしくしか聞こえない、ということなのです…。例えば、「全日本こころの歌謡選手権」の課題曲を例にとりましょう。日野美歌さんが歌う「ひまわり海岸」という作品があります(山田の作曲なのですが…)。この作品の頭に「ひまわり咲いている」が2回繰り返されますが、この「咲いている」の「さ」に注目してください。まるで「んっさっいている」と書くしかないくらい頭の「さ」をうまくショットしています。これは、ウイスパーと呼ばれる、別名「無声音」を発声しながらも、うまくアクセントをつけて、軽く「ショット」して(打って)いるのです。
言葉の発声において「サ行」の発音はこの「さいている」のように、本来は言葉をうまく表現するための美味しい可能性を持った部分なのです。なのに、切れ味良く「サッ」と発音してほしい部分がまるでマスクをしているような、あるいは手で口をふさいで歌っているような、不明瞭歌唱がいくつもありました。それを「まみむめも」と「モゴモゴ」になっていると揶揄したのです。コレをじっくりアドバイスしてあげたい人が何人かいました。
メロディ感も、リズム感もいいのにこの言葉がはっきりしないことですごく損をしている人のことです。すべての「サ行」が頭にくる言葉を、このようにしろとは言いませんが、ここぞという詞の部分が、こういった歌唱でうまく表現されていると、やはり歌の詞が、ドラマが伝わるのです。あらためて、日野美歌さんが歌う「ひまわり海岸の」咲いているの「サ」をお聴き下さい。うまい!!です。
https://note.mu/embed/notes/n2a3f285b65ad
【完全保存版】徹底解説!『ひまわり海岸』3つの歌唱ポイント
「たちつてと」「かきくけこ」もおいしい!
「さしすせそ」を含む歌詞をウィスパーで軽くショットすると、とても言葉がクリアになることをお話ししました。実は「さ行」だけではなく、「かきくけこ」、「たちつてと」を含めた「か行」、「さ行」、「た行」の三つ行が日本語の発声をクリアにするだけではなく、かっこよく、表情豊かに、哀愁をこめて、など様々な部分でいい歌を聴かせる大切な要素なのです。歌の技術的な話に聞こえるでしょうが、実は歌のうまいアーティストはこのあたりがさりげなく自然に表現できていて実にいい歌を奏でているのです。
今回は、「たちつてと」も美味しいというテーマで「さ行」も組み合わせた例を紹介しましょう。「全日本こころの歌謡選手権」の課題曲でクミコさんの歌う「たからもの」で、山崎ハコさんが作られた素晴らしい作品です。歌の頭の部分「さいはてのまちでいきています」この1行の部分で「さいはて」の「さ」、「まちで」の「ち」、「いきています」の「す」を注意深く聴いてみて下さい。すべてのこれらの行の言葉にアクセントを付ければよいというわけではありませんが、いくつか歌っていくうちにこのフレーズのように、ショットする部分が自然に出るようになるものです。
https://note.mu/embed/notes/n06203419ac9c
もう一つ見てみましょう。同じく課題曲「回転扉」で小田純平さんの歌う「ゆるしてくださいこのこいを ほかになんにものぞまないから すべてのことに みみをふさいで あなたとながれて ゆきたいの」この4行の中にしっかり「か行」「さ行」「た行」が含まれていてしかも純平さんはさりげなく、巧みにウィスパー気味に軽くショットしていて素晴らしい歌になっています。こういう風に言葉の発声の仕方を覚えると、人の歌っているのが気になってきます。「あっつ!まみむめもになっている!」とか、「この人言葉がはっきりしない!」とか。つまり、耳が良くなってくるんですね。(きっと!)そして上手くなるはずです!
https://note.mu/embed/notes/n6b377a90e21a
メロディを間違えてはNG!
上手く歌うには、メロディの正確さが重要です。「きっちり楽譜どうり歌え!」ということではないのですが、やはりガクッと来るようなメロディの外し方は、1か所でもあればお客はドン引きになって「へたくそ!」となってしまいます。それも、タメやノリで崩してもオッケーのところと、「そこは違うでしょう!?」が有るわけです。素人さんのカラオケ大会だけではなく、プロでもレコーディング現場でメロディを間違えたまま録音してなかなか治らないことは珍しくありません。一番最初にその楽曲を覚える時が重要ですね。オリジナルや、作家のデモ音源を一番最初に聴いて覚える時が肝心です。できれば、最初に楽譜をしっかり見ながら正確に覚えて欲しいです。一度頭に入ってしまうとなかなか抜けきらなくって治らない人も珍しくないです。
メロディに不安のある人にはカラオケの採点機能がオススメです。とくに最近のカラオケマシンは、音程をしっかり判断し、歌唱中の画面上部に表示される音程の上下は、メロディを正確に歌うための練習にすごく役立つと思います。カラオケの採点機能は、「こぶし」、「しゃくり」、「フォール」、「ビブラート」などを総合的に判定して点数が表示されますがそれはあまり気にせず、「音程」の部分を重視してトレーニングマシンとして活用するわけです。
また、カラオケで練習をするのなら、ガイドメロディ 「ON/OFF」が選べますよね。まず、ガイドメロを「ON」にして、そしてレベルも大きくしてしっかりガイドメロディで本来の正しいオリジナルメロディを確認する方法もいいのではないかとお奨めしたいです。やはり、歌の上手い人は、メロディラインがしっかりしていると私は信じています!
=メロディをきちんと歌って! =
「ちゃんと正しいメロディを歌いなさい!」
思わず厳しい言葉を投げかけてしまった…。
小学五年生の歌へのコメントである。親しい作詞家が「歌手志望の小学生がいるので、一度歌を聴いてやって欲しい」というよくある金の卵発見の話である。
もうすぐ11歳のお誕生日が来るというとても可愛いお嬢さんの歌は、そう簡単にはシンデレラストーリへは難しいと思ったが、まあまあの歌ではあった。
演歌が好きだと言って「津軽海峡冬景色」を歌った彼女は、カラオケボックスのでかいスクリーンに映る歌詞も見ないで暗記していた。
しかしメロディがまずい! 2か所も間違っていた。しかも、私が「心の師」として崇拝する三木たかし先生の素晴らしいメロディを、1番も2番も、リフレインもきっちり同じように間違ってくれる…。
これは許せない!。
「あの…、メロディが2か所間違っているんだけど、ちゃんと石川さゆりさんの歌聴いたんじゃないの?」
「あっ、石川さゆりさんて知ってる、このテレビに映っている人だよね!」
「だから、この人の歌聴いて覚えたんだよね!?」
「ううん。聴いたことない。だって、お母さんとカラオケに行って、お母さんが歌っているので覚えたんだもの」
「じゃあ、石川さゆりさんの歌は?」 「聴いたことない!」
まあ、なんとも情けない話である。
カラオケが流行ってから「一億総歌手の時代」と言われだした。カラオケ大会に出場する人も、CDは買わず、カラオケ喫茶で人の歌をカセットやICレコーダ録音して間違ったままのメロを覚える。
楽譜は、人のものをコピーして使う。こんな、音楽の香のしない、チャレンジ精神の無い世界の中に育ち、大人から適当にちやほやされてきた子供が「歌手志望」はないと思う。
「とにかく、まず石川さゆりさんのCDを買って、楽譜をしっかり見ながら徹底的にプロの歌をまねてコピーしなさい!」と指導した。
必ずしもいい指導方法かどうかは微妙だが、その場ではそれしか口に出なかった。
小学生の話だけではない。
「歌がもっとうまくなりたい!」とアドバイスを求める歌手の方や、カラオケ大会入賞狙いの人たちも全く同じである。
昔、「レコードが擦り切れるほど聴いた!」といういい方が流行ったが、簡単に、安く音楽環境が得られるようになった今は、音のとらえ方まで「適当!」がまかり通る時代となった。オリジナル作品の軽視である。
もう一度言いたい、メロディを正確に覚えてしっかり歌いましょう。
作曲家は、詞を伝えるために相当苦労してメロディを、ドラマを作っているのだから。