世は歌につれ 月刊「FACTA」連載

団塊世代のアイドル小田純平|月刊「FACTA」連載 世は歌につれ/田勢康弘


4.団塊世代のアイドル小田純平

小田純平。62歳の歌手である。挿し絵の写真を見てほしい。人形だが実物よりも小田純平らしい。バンダナキャップに黒いサングラス、丸い鼻の下の見事な髭。そして名前がいい。雑誌ビッグコミック連載の漫画『土佐の一本釣り』の主人公純平からとったという。ライブ会場で小田さんと呼ぶ人はいない。みな「ジュンペイ!」か「純平さーん」である。

各地のカラオケ大会でたぶん一番歌われているのが小田純平の歌だ。この記事を読み始めたほとんどの人は小田純平? 聞いたことないな、と首をかしげているに違いない。だが歌好きの団塊の世代のアイドル的存在なのである。首をかしげたあなたは、失礼だが相当時代に遅れている。若い世代に人気の米津玄師やRADWIMPSをテレビで見ることがあまりないように小田純平もあまりテレビでは見ない。もはやテレビで歌っているのは一部の演歌を中心とした歌い手ばかりなのである。人気のある歌手でもたとえば小田和正も井上陽水も、中島みゆきもあまりテレビに出ない。

純平の歌に出合ったのはまったくの偶然だった。私は時間があるとYouTubeをいじり回して何かおもしろい歌、とてつもなく巧い歌手を探すのが趣味のようになっている。「ほかされて」(作詞リーシャウロン、作曲小田純平)を題名の関西弁に惹かれて聴いたのが最初だった。

あんたとあたいを秤(はかり)にかけりゃ

きっと重たい女の心

金魚のように掬(すく)われて

恋が破けて落ちたんや

愛されて 泣かされて

はぐらかされて ほかされて

よけいに惚れて 月灯り

涙が好きに なるばかり

執筆にあたってYouTubeで聴き直してみた。なんと128万回も聴かれているのだ。地下深くからマグマが地表へ噴き出して来るような野太い声。それでいて哀しみを帯びているのだ。そして高音もどこまで出るのかと思うほどだ。純平ライブのオープニングは世良公則自作の「あんたのバラード」。ホールいっぱいに「あんたにあげーえた」と叫ぶように歌う。その声量に初めて聴く人は度肝を抜かれる。

純平ライブの人気の出し物は物真似である。田村正和、中尾彬、大滝秀治など、実によく似ている。歌真似も松山千春など本人かと見まごうほどだ。これには純平家族の歴史が関係している。純平が3歳のころ家族で「ナポリ演芸会」なる旅回り一座をしていた。

父親はもともと曲馬団の一員でアクロバットをしながら三味線やアコーディオンを弾いたりしていた。浅草で行われた万国ビックリショーという芸人の大会で日本一になったこともあるという。母親は三味線を弾きながら浪曲や天津羽衣、畠山みどりの歌を歌い、姉は藤間流の名取で日本舞踊を踊った。純平もそのころ舞台で「九段の母」(作詞石松秋二、作曲能代八郎、唄二葉百合子)を歌ったという。

「鳶が鷹の子うんだよでいまじゃ果報が身にあまる金鵄(きんし)勲章がみせたいばかり逢いにきたぞや九段坂」とまったく意味もわからず歌ったのである。いたいけな子供が歌う母ものに観客は涙し、おひねりがたくさん貰えたという。このころ父親から、舞台に立ったら必ず何かおもしろいことをやれと仕込まれた。それが今の舞台にも引き継がれているのだろう。

いまの姿からは想像できないが、歌手デビューは1979年22歳CBSソニーから「海を見ていよう」で、本名の馬越敏幸。アイドル歌手だったが売れなかった。芸名を小田順平にして何曲か出すが、やはり売れない。そこで順平を純平に変える。このころから作曲の依頼が増えてくる。最初はキム・ヨンジャの「かんにんや…」(作詞松元重孝)。アニメの主題歌から里見浩太朗『半七捕物帳』の主題歌「風が吹く時も」、松原のぶえ「合掌街道」、大江裕「こころ変わり」、山本譲二「残花」、小金沢昇司「神楽坂」と300曲ほど。カラオケに入っている自分が歌っている歌は約100曲というから小田純平作曲の楽曲は合計400曲以上カラオケで歌える。

歌は歌手がどんなに上手くとも曲がどれほど素晴らしくても、歌詞が良くなければ人の心はつかめない。純平歌謡の特長はいい詞に恵まれていることだ。純平自身が歌っている歌を最もたくさん作詞しているのはmasaruで18曲。「SAKURA CAFEにて」「花の遺言」「母のマフラー」など。続いて伊藤美和の13曲。「恋月夜」「百夜月」「砂時計」など。3番目が亡くなった志賀大介の12曲。「人の心に棲む鳥は」「とまり木挽歌」などである。

独断で純平歌謡を好きな順に並べてみる。①一行だけの置手紙(伊藤美和)、②東京迷い猫(下地亜記子)、③砂時計(伊藤美和)、④SAKURA CAFEにて(masaru)、⑤ほかされて(リーシャウロン)、⑥母のマフラー(masaru)、⑦恋月夜(伊藤美和)、⑧とまり木挽歌(志賀大介)、⑨冬ヒバリ(かず翼)、⑩へのへのもへじ(下地亜記子)。

トップに挙げたのは純平歌謡の中ではそれほど人気のある曲ではない。他の歌手も歌っているからだ。純平歌唱を前提にこの曲を推す。

「一行だけの置手紙」

作詞伊藤美和、作曲小田純平

あなたが目覚める その前に

この部屋を 出て行くわ

聞きなれた 寝息数えて

いつもと違う 朝を待ってる

許してください 黙って行くこと

引き止められたら 行けなくなるから

一行だけの 置手紙

残してひとり 旅立つ私

なんと哀しく切ない歌だろう。それなりに苦労して生きた団塊の世代は、切なさに浸りたいのだ。(敬称略)

『新潟の海岸で純平人形』(撮影・上杉敬)

※月刊「FACTA」2019年7月号より転載
FACTA online→ https://facta.co.jp/

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