世は歌につれ 月刊「FACTA」連載

「船村演歌の寄る辺は「母」|月刊「FACTA」連載 世は歌につれ/田勢康弘


13.「船村演歌の寄る辺は「母」

私がキャスターを務めていたTV報道番組にどうしても出てもらいたくて頼んだのが作曲家船村徹である。8年ほど前のことで、厚かましくもギターでの弾き語りをお願いした。5千曲も書いている巨匠は私にこう言った。私の曲で一番好きなのは? それを歌うよ。「都の雨に」です。私の顔をじっと見て、よしっと言った。

故里を 想いださせて

降りしきる 雨は絹糸

帰ろうと おもいながらも

いたずらに 時を見送り

待つ母に わびる明け暮れ

(作詞吉田旺、歌ちあきなおみ)

弾き語りは素晴らしかった。歌は言葉を通して心を伝える仕事、そう考えている私の理想通りの歌だった。うまく歌い過ぎるとかえって伝わらないことってありますよね、君の言う通りだ、そんな会話をした。

でも船村先生! 気持ちが変わりました。一番心揺さぶられ大好きな歌がありました。岐阜県の笠松女子刑務所で300人の女囚の前で弾き語りした「希望(のぞみ)」(作詞作曲船村徹)でした。

ここから出たら 母に会いたい

おんなじ部屋で ねむってみたい

そしてそして 泣くだけ泣いて

ごめんねと おもいきり

すがってみたい

ここから出たら 旅に行きたい

坊やをつれて 汽車にのりたい

そしてそして 静かな宿で

ごめんねと おもいきり

抱いてやりたい

ここから出たら 強くなりたい

を持って

耐えて行きたい

そしてそして 命のかぎり

美しく も一度生きて行きたい

船村はこう記憶する。「平均年齢は41歳だったと聞いた。ほとんどの女性が結婚していて、子どももいる。私はみんなの前でギターを奏で歌い始めた。二番で、すすり泣く音がしはじめた。見渡すと何人もが涙を拭っている」(船村著『魂の響き─のぞみ』より) 

船村徹は26歳のころから刑務所慰問を続けてきた。刑務所で歌う歌を作詞家に頼むわけには行かないのでいつも、自分で詞も書くと笑う。

「王将」「風雪流れ旅」「みだれ髪」など船村には歌謡曲史に燦然と輝く名曲が数多くある。それらの名曲はほとんど知っているし、ステージで歌うことも少なくない。しかし年老いたせいか、母や故郷の歌に強く惹かれる。

母のいない故郷

(作詞新本創子、歌鳥羽一郎他)

母のいない故郷は 風の村

無人駅に降りりゃ

子供にかえれない淋しさ

母さんのせいだよ

ただ時の流れにたたずむばかり

男の友情

(作詞高野公男 歌青木光一)

も君の夢見たよ

なんの変わりも ないだろね

東京恋しや 行けぬ身は

背のびして見る 遠い空

段々畑の ぐみの実も

あの日のままに うるんだぜ

船村は若くして世を去った作詞家の高野公男の供養を毎年、歌供養という名前でたくさんの音楽関係者を集めて行った。男の友情という歌は船村と高野の友情の歌なのである。

作曲家船村徹の存在を私が最初に意識したのは島倉千代子に書いた「東京だョおっ母さん」「里子月夜」「哀愁のからまつ林」からである。島倉千代子はこう言った。「コロムビアに入ったばかりのころ、怖かったのはまだ若い船村先生だった」

当時コロムビアは千代田区内幸町にあった。島倉がスタジオの前を通ると、素敵な歌が流れてきた。レコーディングしているのは美空ひばり、指揮は船村。「波止場だよ、お父っつぁん」。船村先生、わたしにもああいう歌書いて。出来たのが「東京だョおっ母さん」である。

戦死した兄が祀られている靖国神社に母親を連れて行く。母親は初めていい歌だと、褒めてくれたという。船村には母親や故郷をテーマにした歌が多い。船村徹という筆名も故郷の「船生村」からだ。

それにしても作曲家生活60年、5千曲はすごい。手元に曲のリストがあるが、島倉千代子だけで68曲もあった。船村は後半生、演歌巡礼としてギター抱えて全国を回った。

前述の著書でこう述べている。「私は作曲家ではあるが、歌の力は7割は詞によるもの、さらに言えば言葉によるものだと思っている。日本語が痩せ細っていくと、やはり曲の方も痩せていかざるを得ない」

生前、何度も船村に尋ねた。「日本の歌謡曲がダメになっているように思いませんか。名曲には必ず昭和の二文字がつきます。それに歌手の歌う力が落ちているように思います」

船村は「あなたの言う通りだよ。みんな同じように感じているんだけどね」。音楽を配信でなくCD中心の日本は世界の音楽市場からはじき飛ばされている。CDに入った音楽はコンピュータで加工されまくったもので、生の声とは言えない。

だからライブで聴くとCDとの差に愕然とすることがある。カラオケの普及で歌は聴くものから歌うものになり、有名な歌手のコンサートでも、素人が歌うコーナーを設けないとチケットが売れないという話も聞く。

うまい歌が必ずしも聴く人を感動させるものではない。カラオケの機械で98点出せる人が、たとえばビートたけしよりもう一度聴きたいと思わせるとは限らない。疑問に思う人は彼の「嘲笑」という歌を聴いてみてほしい。間違いなくあなたより下手です。でも涙が出るのです。

コロナ禍で歌謡曲も生死の境をさまようような状況である。歌手は仕事がなくなり、コンサート会場は閑古鳥だ。歌が消えることはないと思いたい。私が始めた歌謡曲ルネサンス運動を応援してください。(敬称略)

亡くなる3カ月前、文化勲章親授式を終え記者会見する船村徹(16年11月、東京・皇居)

※月刊「FACTA」2021年1月号より転載
FACTA online→ https://facta.co.jp/

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