昭和歌謡裏話、こぼれ話

田勢康弘の昭和歌謡裏話、こぼれ話/ 「出会えた人出会えなかった人 美樹克彦」


「世は歌につれ」/歌謡曲ルネサンス

50.出会えた人出会えなかった人 美樹克彦

数年前に亡くなった高校の同級生のO君がある日僕にこう言った。「おまえ歌謡曲が好きなんだろう。美樹克彦って知ってるだろう。会わせてやるから今度来いよ」へそ曲がりのぼくはいいよ、興味ないよ。O君は、知らないんじゃないのか?そんなことないさ。「花はおそかった」(作詞:星野哲郎作曲:米山正夫)「かおるちゃん おそくなってごめんね」を歌った奴だな。昔は目方誠っていったんだぜ。ひけらかしてみた。それっきりO君は美樹克彦の名前を出さなくなった。そのうちO君が急死。O君の葬式のとき、なぜかこれで美樹克彦に会うことはなくなったな、と思った。
それから数年後、縁があって美樹克彦を紹介された。飲みそうな顔をしながら二人とも完璧な下戸。コーヒーだけで何時間も歌の話をした。「歌をなんとかしなければと思っている」と僕の胸の内を明かすと、話はどんどん盛り上がる。何か一緒にやりたいね、という話になったとき、美樹克彦は「まだちゃんとした曲になっていない歌がある。実は星野哲郎先生に詞をお願いした歌なんだ」と話した。星野哲郎には僕も相当な思い入れがある。聞けば「一生のうちに一回しか咲かない高山植物があるんです。花一花(はないちげ)という題で詞を書いてください」と植物図鑑持参で頼んだという。できた、という電話で詞を受け取り、それに美樹が曲をつけたという。

どうしてもその歌を聴いてみたい。美樹は僕のためにギター弾き語りで歌い録音したCDを送ってくれた。「花一花」(はないちげ)(作詞:星野哲郎作曲:美樹克彦)(これはこの世に二つとない 花の咲く木でございます 今宵あなたに捧げます)淡々と歌う美樹の歌い方がいい。美樹がぼくに言った。だれか歌う人を探してくれない? わかった、預かるよ。メジャーなレコード会社の知り合いに手渡し聴いてもらった。「うちの◯◯に歌わせたい」。ぼくはすぐに断ってCDを引き取った。歌とその大物歌手のイメージがあまりに違うからだ。
八王子のコンサートで、美樹が初めてこの歌を弾き語りで歌うことになった。ところが当日、美樹は声が思うように出ない、とギターを抱えて俯いていた。本番の直前、ギターを抱えた美樹は舞台の袖にいた僕を呼んだ。「一応、歌い始めるけど、たぶん、声が続かないと思う。悪いけど、そうなったらそこからはあなたが歌ってくれ」練習もリハーサルもなし。もちろん、思い入れがある曲なので何度も聴いている。美樹は歌い始めたが、声はほとんど出ていない。おまけにギターを弾きながら泣いているようだった。客席からははっきり泣いているのがわかったらしいが、隣で代わりに歌い始めた僕には見えない。
この場面は観客席の感動を誘ったらしい。ほとんど歌わずに観客の涙を誘う。もしこれが芸だとしたらすごいが、ほんとうに泣いていたらしい。この歌を何とか世に出したい、そういう思いが全日本こころの歌謡選手権大会を開催し、これを課題曲にしようという企てのきっかけである。電話で美樹克彦に「八代亜紀さんに歌ってもらうことにしたよ」と告げた。美樹の言葉は聞こえず、嗚咽のような呼吸音だけがスマホから漏れてきた。すぐに感激するタイプだから、泣き上戸かもしれない。

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