昭和歌謡裏話、こぼれ話

田勢康弘の昭和歌謡裏話、こぼれ話/ 「出会えた人出会えなかった人 與那嶺商会」


「世は歌につれ」/歌謡曲ルネサンス

53.出会えた人出会えなかった人 與那嶺商会

3、4年前の夏のこと。僕がMCをしていたテレビの報道番組で沖縄の辺野古へ行った。現地でのリポートや座談会などを撮り終えて、あとは最後の晩の打ち上げをかねた夕食だけが残りの大事な日程だった。どこで何を食べるか、10人ほどのテレビの出張取材ではこれが実に大事なのである。思い出としていつまでも話の軸になるからだ。
僕は夕方早目に出て国際通りを歩いた。そうすると三越(いまは沖縄よしもと)のそばに「沖縄音楽食堂」という看板を見つけた。
ウインドーの案内を読むと島唄のライブを聴かせるレストランらしい。
ここに決めた。きっと、目のくりくりっとした可愛い女の子が声をひっくり返しながら歌い踊るのだろう。これは盛り上がるはずだ。この日の歌手は「與那嶺商会」となっていた。不思議な名前だが、たぶんAKBのようなグループなんだろう。ゴーヤチャンプルなど沖縄料理を注文しながら、泡盛を飲みながらライブの始まるのを待った。

舞台に灯りがついてライブが始まる。ナニッ!と息を呑んだ。出てきたのは50歳前後の中年のオッサン2人である。しかも三線を手にしたほうはモヒカン刈り、ギターを手にしたほうは小太りの奇妙なコンビ。なんでわざわざ沖縄までやってきて中年のオッサンの歌を聴くことになったのか。
スタッフたちはみなそんな顔をしている。しかも観客は僕たち以外には2人ほどの貸し切り状態である。モヒカンが沖縄メロディを弾きながら早口で話しはじめる。
「本日は私共與那嶺商会のために会場いっぱいの700人ものお客様がおいでくださりありがとうございます」どっと沸く。うん、これは面白いかもしれない。
この晩は2回公演、結果として2回全部聴くことになった。ここから與那嶺商会と僕とのなんともいえない関係が始まる。

怪しい中年の二人組はモヒカンが「店長」、小太りが「ターシ」と呼ばれている。店長は早口で小気味良く展開する毒舌トークが役回り。ターシはツッコミ担当というところか。「お客様に申し上げます。私共へのおひねりは2千円以上にお願いしております」。これでまたどっと沸く。もちろん島唄が中心だが、あいだにさまざまな歌。一青窈の「はなみずき」なども歌う。
この「不良中年二人組」の人気を不動のものにしたのはオリジナル曲「涙のワンナイト首里城」(作詞作曲:トカシキミツオ)「那覇のネオンの海を抜け 辿り着いたの首里の街 あなたと出会った石畳 今日も雨が降っている」。とくにこの歌のサビは「シュリ シュリ シュリ シュリ 首里城 昔大学 今は城」というくだりで、誰の耳にも必ず残る。
首里城は琉球王国の大事な城だが、米国統治で城は城でなくなりここに琉球大学があったという。本土返還後のいまは城として観光名所になっている。
このシュリ シュリが常に頭の中をぐるぐる回るようになり、東京の小岩の沖縄料理の店「こだま」で月1回ぐらい彼らのライブがあるので通った。もちろん、テレビのスタッフたちも引き連れて。沖縄観光の合間に偶然聴いてやみつきになったという人たちでいっぱいになる。

あるときターシに耳打ちした。「僕の田舎は山形なんだけど来る?」「山形、行ったことない」「どうせ来るなら一番雪の多い2月がいいけど」「行きたい、雪なんてあんまり見たこと無いから」。
というわけで郷里白鷹町での「與那嶺商会ライブ」が行われることになった。さあ、それからが大変、町をあげての大騒ぎとなった。
会場は温泉付きの宿泊施設「パレス松風」。その宴会場を二つぶちぬいてステージと客席をつくる。タイトルは「春を呼ぶ沖縄島唄ライブ」。
そうだ、沖縄料理を並べよう、泡盛も取り寄せようとみんなが知恵を出した。沖縄から山形へ来るだけで飛行機代が1人10万円はかかる。2人で20万円。でもそんなには出せない。入場料も高くはできない。そうだな、ちょっと行ってみるかな、という金額はいくらぐらいだろうと考えた。
飲み食いつきで3500円となった。ただし2杯目以降の飲み物は実費。旅費と最低限のギャラを出すためには何人入場してもらう必要があるか。250人とだれかがはじいた。この町でかつてアジア国際音楽祭などが行われたことはあるがパレス松風でそれほど集めたことはない。僕も東京から親戚などに電話した。

沖縄の不良中年組を迎え、町は沸いた。前夜、歓迎の餅つきがあり、彼らは初めてつきたての餅を食べた。雪の中に体を何度も投げ出して、子供のように雪と戯れていた。田舎料理を珍しそうに眺めながら、はしゃいだ。
ライブ会場は入りきれないほどの人。250枚、売り切ったのである。沖縄の料理が、酒が並び、島唄が流れる。與那嶺商会のあの面白さが、白鷹の人々にわかるだろうか。静かな人たちだからそれが一番の心配だった。おもしろいことを言っても、シーンと静まりかるのではないか。杞憂だった。冒頭から大盛り上がり。ほとんどの人が沖縄の島唄をライブで聴くのは初めてだというのに、そして、こんなにこの町の人々が盛り上がることがあるのかと驚き、フィナーレの「涙のワンナイト首里城」になった。ステージ上の2人は踊りながら歌う。両手を交差させながら、波の仕草をする。それに合わせて町の人たちが踊る。冗談一つ云わない僕の親戚の席を見て驚いた。体を動かして盛り上がっている。「ああ、呼んでよかった」とそのとき思った。

今年の夏、沖縄へ出張した際、電話でターシを呼び出し、国際通りのスタバで話をした。歌への思いでターシの話は熱かった。「白鷹の人たちがね、またシュリ シュリを呼んでほしいって」「そう、うれしいな、必ず行きますよ」。
手前味噌だが、僕が応援し始めると不思議なことにそれぞれの歌手の知名度があがって行く。與那嶺商会もそうだ。東京のテレビで彼らを見ることはないが、こんなにも魅力的なエンターテイナーがこの日本にはたくさんいるのだ。「無名の歌手の広報係」それがこれからの僕の仕事だ。

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