勝負どころでメロディを決める!その2『弓』
繊細な歌唱でドラマの幕開け
作曲者は詞の持つドラマ性を伝えるために様々なメロディ(音程)とリズムを模索する。その中でメロディとリズムをどう刻んで表現するかという符割りはとても重要である。
2曲目は「弓」。この作品は作詞、作曲が美樹克彦先生で、初めてデモ音源を聴かせていただいたとき「シンガーソングライター」としての味がたっぷりと浸み込んだ素晴らしい作品だと思った。特に、細部にまで言葉の表現が気配りされた作品の繊細なテイストが伝わってきた。
この作品の頭の4小節は、いかに「弓」というドラマの幕をあけるかという大事な役割の部分である。頭4小節の楽譜を見てみる。
楽譜協力:「月刊歌の手帖2016年7月号」
「こころのゆみを」の最初の「こころの」は、16分音符の小刻みな符割り、ここはリズムを上手く表現できている人が多いが、そのあとの「ゆみを」の部分が8分音符になってしまっている人を良く見かける。その次の「ひいて」と「とめて」も同じである。
音源を聴いて確認してみよう。最初のメロは楽譜の赤い〇で指摘した3つの部分を8分音符で間違っているケース、その次のメロは16分音符の正しいケース、そして、最後に流れるのは小松みどりさんのオリジナル音源である。
聴き比べてみて欲しい。8分音符のメロディ、符割りでもおかしくはないが、やはり楽譜に示した16分音符のほうが弓の部分が軽くアクセントになっていて言葉が立ってくる。特に、小松みどりさんの歌唱はそこに静かだが激しい女の情念のようなものが込められている。
このように細部にまで繊細なテイストで作られた楽曲なので、出だしは楽譜通り16分音符の符割りで繊細にドラマの幕を開け、後半のサビの激しさとコントラストを強くすることで、この楽曲の歌唱のグレードがグッと上がることになる。