「ちゃんと正しいメロディを歌いなさい!」
思わず厳しい言葉を投げかけてしまった…。
小学五年生の歌へのコメントである。親しい作詞家が「歌手志望の小学生がいるので、一度歌を聴いてやって欲しい」というよくある金の卵発見の話である。
もうすぐ11歳のお誕生日が来るというとても可愛いお嬢さんの歌は、そう簡単にはシンデレラストーリへは難しいと思ったが、まあまあの歌ではあった。
演歌が好きだと言って「津軽海峡冬景色」を歌った彼女は、カラオケボックスのでかいスクリーンに映る歌詞も見ないで暗記していた。
しかしメロディがまずい! 2か所も間違っていた。しかも、私が「心の師」として崇拝する三木たかし先生の素晴らしいメロディを、1番も2番も、リフレインもきっちり同じように間違ってくれる…。
これは許せない!。
「あの…、メロディが2か所間違っているんだけど、ちゃんと石川さゆりさんの歌聴いたんじゃないの?」
「あっ、石川さゆりさんて知ってる、このテレビに映っている人だよね!」
「だから、この人の歌聴いて覚えたんだよね!?」
「ううん。聴いたことない。だって、お母さんとカラオケに行って、お母さんが歌っているので覚えたんだもの」
「じゃあ、石川さゆりさんの歌は?」 「聴いたことない!」
まあ、なんとも情けない話である。
カラオケが流行ってから「一億総歌手の時代」と言われだした。カラオケ大会に出場する人も、CDは買わず、カラオケ喫茶で人の歌をカセットやICレコーダ録音して間違ったままのメロを覚える。
楽譜は、人のものをコピーして使う。こんな、音楽の香のしない、チャレンジ精神の無い世界の中に育ち、大人から適当にちやほやされてきた子供が「歌手志望」はないと思う。
「とにかく、まず石川さゆりさんのCDを買って、楽譜をしっかり見ながら徹底的にプロの歌をまねてコピーしなさい!」と指導した。
必ずしもいい指導方法かどうかは微妙だが、その場ではそれしか口に出なかった。
小学生の話だけではない。
「歌がもっとうまくなりたい!」とアドバイスを求める歌手の方や、カラオケ大会入賞狙いの人たちも全く同じである。
昔、「レコードが擦り切れるほど聴いた!」といういい方が流行ったが、簡単に、安く音楽環境が得られるようになった今は、音のとらえ方まで「適当!」がまかり通る時代となった。オリジナル作品の軽視である。
もう一度言いたい、メロディを正確に覚えてしっかり歌いましょう。
作曲家は、詞を伝えるために相当苦労してメロディを、ドラマを作っているのだから。